2テーマ同時の研究補佐(1983年)

博士の研究史

T助手、I 博士のお二人の研究補佐が始まった。

お二人が研究室に来られる時間は微妙にずれていた。

I博士は10時頃、T助手はお昼頃・・・というわけで、

10時から15,16時頃はI 博士の研究補佐、

15,16時頃から夜まではT助手の研究補佐・・・

という2部制の研究補佐業務が始まった。

 

T助手の主テーマは微生物が生産する糖鎖探索、

I 博士の主テーマは真菌が生産する赤血球凝集酵素探索、、、

いずれの研究補佐業務も、大石先生の時と同じで

スクリーニング培地作り、保存菌の植次ぎ、

アッセイ系作り、対象生産物のスクリーニング・・・

2つのテーマの同時進行によって作業そのものは倍増したが、

糖鎖に関すること、酵素に関すること、それぞれの周辺に

触れることで日々一人前の研究者らしくなっていった。

 

無理はしなくても良いよ・・・という心配を頂きながら

確実にヒトの2倍以上の実作業、一日の3分の2は研究室に居る・・

という生活が1ヶ月半くらい経った頃の土曜日の夜、

T 助手に呼ばれた。

 

「若山さん・・・、このまま続けていたら倒れちゃうよ。」

いつも飄々としている助手の顔はかなり真剣だった。

「倒れるまで頑張ってみます。」

僕も真剣には真剣を・・ということで真面目に答える。

 

助手は相変わらず真剣さを崩さない。

「僕の研究は長期に渡る。助手の身分は安定しているから

論文執筆にこだわっていないんだ。じっくりマイペースで

進めていくから若山さんはずっと同じような作業の繰り返しに

なってしまうと思うんだ。

だからあと1年の間に何の成果も出せずに研究生が終了となる

可能性が大きいよ。」

「・・・・・」

確かに単なる補佐業務を会社は成果としては捉えてくれないだろうな・・

と頭を巡ったが何も言葉が出てこない。

 

「僕はマイペースでやれるから、I さんの補佐に集中した方が

良いよ。身体に無理が無いし・・・。」

「いや、まだまだ見習い状態ですから、体力が続く限り

補佐させてください。」

成果なんか出なくても良い・・・出来る限り色々なことを

やればきっと将来に役立つだろうと思いながら答えた。

 

「その言葉だけ受け取るね。今まででずいぶん助かったよ。

ありがとう!

実はね、I さんとは話が付いているんだ。

だから来週からはI さんの補佐に集中してね。」

「・・・・・・」

どう反応して良いのか、喜びを表して良いのか悪いのか・・・。

 

「I さんはオーバードクター、大学や研究機関の公募に応じたり

企業への就職活動しなくてはいけないでしょ?

身分が安定している僕みたいにマイペースでは出来ないから、

短い期間でなるべく多くの実績を残そうと日々頑張っている。

だから若山さんも単純作業だけに止まらず、

いろいろなチャンスに出会えると思うんだ。」

「わかりました。1ヶ月半近くしか補佐が出来ず

かえってご迷惑をおかけしました。」

 

こうして1ヶ月半の同時並行研究補佐は終了となり

次の週明け月曜日からI 博士の専属補佐となったのである。

I 博士からより専門に近い部分の補佐業務に関する説明指導を

していただき、充実した研究業務が始まった。

専属となったことでより深く研究に触れるようになり、

単純な作業の中でも僕なりに日々成長していることを自覚出来た。

この時には、I 博士専属補佐となってから1ヶ月後に

僕の未来を大きく変える出来事があろうとは思いもよらなかった。