失敗と向き合う

博士の研究史

1983年の年頭から1ヶ月半に渡って続いた

2テーマ同時の研究補佐だったが

2月半ばからはI 博士の専属研究補佐となり

1つのテーマに専念することが出来るようになった。

 

I 博士はConidiobolus属という真菌が生産する

赤血球凝集酵素等の作用機作解明をヒト細胞等を使って研究していた。

菌の植次、菌や酵素のスクリーニング、大量培養、

酵素の精製・・・など日々の業務は充実していた。

恐らくバイオ研究に必要な器具や装置、それらの使いこなし、

基本的な勉強などはI 博士の研究補佐をさせていただいて

ほとんど全てが身に付いたと思う。

 

僕より5歳年上のI 博士は、研究室では室員のボス的な存在だった。

I 博士とは少なくとも研究室に居る間はいつも行動を共にしていた。

人の話や考え方を引き出すのが非常に上手いので、

I 博士の前では僕はいつも饒舌だった。

研究に関してのディスカッションに限らず様々な事を語り合った。

年上の優秀な気軽に話せる兄貴が急に現れたといったところか・・・。

 

I 博士の研究補佐を初めてから1ヶ月くらいが過ぎた頃の事。

朝方、いつものようにシャーレに植えたConidiobolus属の

様子をチェックし活性が強そうなものをスクリーニングする

という作業をしていた。

シャーレの枚数はいつも200-300枚。

これを1枚1枚チェックしていく。

この作業がその後の展開を左右するから単調な作業だが

注意深く観察を続ける。

このスクリーニングで残るシャーレは10-20枚程度。

それ以外はもう使うことが無いから滅菌して処分する。

 

スクリーニングで外したシャーレ以外にも滅菌処分するシャーレがある。

それはシャーレ内でConidiobolus属は単一でなくてはならないのに

異なる微生物が混じってしまったシャーレ。

所謂コンタミしてしまったシャーレである。

これらコンタミしているシャーレも後で滅菌処理。

大抵、200-300枚の植菌で1-2枚はコンタミシャーレと出会う。

 

この日は順調で?全てのシャーレのスクリーニングが

終わろうとしている時点でコンタミシャーレはゼロ・・・。

「あと10枚か・・・」とシャーレを持ち上げた時だった。

持ち上げたシャーレがコンタミ・・・。

「やはりコンタミゼロは無理だったか・・・」

と独り言を呟きながら

いつものように後ほど滅菌処理するつもりで

そのシャーレを脇に置き、残りのシャーレのチェックを続けた。

 

一連の作業が終わりスクリーニングから外れたシャーレと

今回コンタミしてしまったシャーレを滅菌処理に回そうと

した時の事だった。

普段は流れ作業のように滅菌作業に入るのでシャーレを見直す事は

し無いのだが、この日は何故かコンタミした1枚のシャーレが

目に飛び込んできた。

良く見ると、いつものコンタミしてしまった時の状態とは

異なりコンタミ菌の周りのConidiobolus属菌が円形に丸はげ状態になっていた。

 

この状態を見た時、何でそうしたのかは未だに分からないが、

そのまま直ぐに滅菌せず、もう一日そのまま培養を続けてみようと

考えて、引き出しの中にそっと置いたのだった。

その時には、コンタミしてしまった・・・という失敗が

その後に僕の人生を変える結果に結びつくとは考えも及ばなかった。

 

【失敗が無い人生は平凡な人生だ】

【失敗と正面から向き合えば人生は大きく変化する】