カウンターにマツタケが置いてあった。
「もうマツタケの季節だね・・・」
「ええ、良いマツタケが手に入りました」
大将との会話からその日の料理が始まった。
大将が土瓶蒸しの器を調理台に並べ始める。
恐らくしばらく後に土瓶蒸しが出てくるのだろうな・・・
なんて思いながら今日ご一緒している客人達と仕事の話が続く。
「土瓶蒸しです・・・」女将が背後から声を掛けてくる。
先ずは蓋の上のお猪口を取って汁を口にする。
パアッと口に初秋の香りが広がる。
ほぼ同時に出汁の旨みと塩気と上品な醤油の旨みが
初秋の香りと複雑に絡み合いながら喉元を通り過ぎていく。
この嬉しい時を三度ほど味わって、土瓶の蓋を取る。
中身はマツタケと飾りミツバのみ・・・。
マツタケの香りと出汁の旨みだけ。
マツタケを口に運ぶ。
口に入る瞬間からマツタケの香りを感じ
その先に出汁の旨みがかぶさってくる。
噛めばマツタケ特有のコリコリとした食感。
コリコリする度に出汁の旨みとの融合が深まっていく。