鰯の塩焼き

「食」のよもやま話

「良いがありますが召し上がりますか?」

大将が問いかけてきた。

「鰯・・良いねえ。塩焼き?」

と問うと

「塩焼きが美味しいと思います。」

満面の笑みで答えてくれた。

 

鰯、、、昨今はその獲れ高の減少からだと思うが

高級魚までには及ばないが、良い値段の魚という

認識が広がっている。

 

その昔・・・今から30数年前のことになるが、

その頃は鰯が山のように獲れていたのだろう。

頭と内臓を取り除いたまま20キログラム単位で

冷凍状態になった鰯を練り製品などの加工原料や

養殖魚のエサとして用いられていた。

鰯はその文字の如く、傷むのが早い。

獲れたての鰯を冷凍にしても含まれる油脂分の

劣化で特有の匂いが生じるから

その当時の冷凍保存された鰯はその用途が限られていた。

 

「その鰯の有効利用を考えよ!」

当時食品会社の研究員だった僕に研究テーマが与えられた。

僕の専門分野はバイオテクノロジー。

試行錯誤の末、

バイオテクノロジーを活用して冷凍鰯特有の匂いを消すことに成功。

「イワシ丸ごとすり身」と命名して工場生産に結びつけた。

「イワシ丸ごとすり身」で海外のフィッシュバーガーのパテ

等への応用も期待されたものだ。

 

そんな思い出に耽っていると、目の前に鰯の塩焼きが

出てきた。

見ると内臓がそのまま・・・まさしく鰯丸ごと塩焼きだ。

「内臓も食べられるの?」と尋ねると

「内臓を食すのが大丈夫なら、美味しいですよ」

と大将が満面の笑みで答えてくれた。

 

醤油をかけて身をほぐし、先ずはお腹の身と内臓を頂く・・・。

サンマの塩焼きでは当たり前の食べ方だが、

鰯の内臓は初めての経験だ。

一口すれば、内臓の苦みが脂が乗った身の旨みと

相まって初めて食す感動を与えてくれる。

丸ごとの鰯はあっという間に頭の部分と骨だけになった。

 

「初めて鰯の内臓を食べた・・・美味しいですね。」と

大将に言うと

「ありがとうございます。」

「鮮度が命のを美味しく食べてくださって嬉しいです」

とまたまた満面の笑みを返してくれた。

 

美味しいものは多くの人々に笑顔を与えてくれる。