ウナギの天ぷら Eel tempura

食・彩・記

昨今のご時世、、、飲食店の多くは

時間短縮営業を強いられている。

そんな中、良く行く天ぷら屋さんを訪ねた。

 

お店の扉を開け、カウンターだけのお店の奥へ

進んでいく。

大将と女将が、こちらへどうぞと案内してくれる。

全ての席にお膳と箸がセットしてあるのを見て

「調子はどう?」

いつもの感じで話しかける。

「全くダメですよ。今日は予約が入っているのですが

昨日はお客様はゼロでした・・。」

と大将・・・。

ここ最近のいつものやり取りから料理が始まる。

 

食事が始まって少し経った頃、

ウナギ・・・は大丈夫ですか?」と大将が尋ねてきた。

「えっ!ウナギ?」

いきなりの質問で戸惑う。

天ぷら屋さんでウナギ・・・僕は経験したことが無い。

 

「ウナギの天ぷらか・・。

想像つかないけど、僕はウナギ好きだからお願いします」

「お客さんが少ないので色々研究しているんです。」

何となく嬉しそうな大将。

 

少し待っていると、一口サイズの天ぷらが目の前に。

箸でつまんで口に運ぶ。

タレが乗せてあるのでそのままで。

一口すればサクッとした衣とタレの旨みをまず感じる。

タレは僕の記憶にしっかりあるウナギ蒲焼きのタレそのものだ。

噛みしめればサクッとした衣の先に、フワーッとした

ウナギの身の存在が現れる。

更に噛みしめていけば、衣の中で旨みがギューッと凝縮された

旨みが口に広がっていく。

天ぷらは素材の良さを凝縮する料理の技であることを

再認識しつつ噛み進めば、タレにすっかりサク感を奪われた

衣の旨みとタレの旨みが身の旨みと融合しながら

胃袋へと落ちていく。

あっという間の出来事だったがその余韻はしばらく続いた。

 

口に何も残っていない状態で沈黙している

僕を見て大将が

「いかがでしたか?」と恐る恐る?尋ねてきた。

「旨い!」

沈黙を破るこの僕の一言で、大将は満面の笑みに。

 

生のウナギを捌いて蒸し上げたウナギ、

タレも長い時間をかけて手作り

であることを聞いて

「これはお店の名物になるんじゃない?」というと、

「普段、こんなに手間はかけられないから

特別に時間がある時の隠れメニューにでもしましょうかね。」

と大将が言う。

 

大将は僕に合わせて答えてくれたのだが、

通常時は予約が取りにくい人気店だから、

通常時にウナギの天ぷらを食べられる時はないだろうな・・

と思いながら、その後も箸を進めた。