独創のイカ飯

食・彩・記

カウンター越しに大将が小皿を配膳してくれる。

もう何回かの経験だからこの小皿の主が何者なのかは

良く知っている。

だが初めて出された時は、大将から説明を受けるまで

この小皿に乗っている料理が何であるのか全く分からなかった。

 

「これは何?」

「イカ飯です。」

「えっ!」

初めてのお客さんと大将の会話が繰り広げられる。

 

ほとんどのヒトが知っているイカ飯はイカの身が露わになっており

その胴体の中に餅米うるち米を混ぜて炊き上げたもの。

 

お客さんから大将に質問が飛ぶ。

「イカ飯とは思えないな・・・。どうなっているの?」

大将は一寸微笑んで、

「イカ飯に衣を付けて揚げてあるんです。

うちのオリジナルで評判良いんですよ。」と答える。

そんな会話を耳にしながらこの美味しさを既に知っている

優越感に浸る。

 

一片を箸で摘まんで口に放り込む。

その瞬間に煮切りのコッテリとした甘味が口に広がる。

噛めばしっとりとした衣の先にイカの弾力を感じ、

それと同時に餅米のもっちり感。

噛みしめていくとイカの旨みと炊き込んだ出汁の旨み、

そしてイカと出汁の旨みをたっぷりと含んだお米が

踊りまくる。

そこに煮切りと衣が参加して踊りは最高潮を迎える。