8月が終わろうとしている月末の某日、
カウンター越しに大将が涼しげな器を目の前に置いてくれた。
その器の主がホッキ貝の酢味噌和えであることは直ぐに分かった。
ホッキ貝とワカメを一寸贅沢にいただける・・・。
期待とともに箸を伸ばしながらいつものように大将に尋ねる。
「ホッキ貝?」
大将がニコッと微笑んで説明が始まる。
「ホッキ貝の中でもワンランク上とされる
黒ホッキというホッキ貝なんです。」
「黒ホッキ貝?・・・」という心のつぶやきに押されて
進めていた箸を止めて大将に尋ねる・・・。
「黒くないけど黒ホッキ?」
一寸間が抜けた質問だが、尋ねて損は無い。
大将が説明してくれる・・・。
「貝殻が黒いのが特徴なんです。」
「北海道長万部、噴火湾で獲れる希少な貝・・・。」
「普通のホッキ貝の身と比べると分かるのですが
身の色も黒ホッキ貝の方が濃いめなんですよ。」
これ以上聞いているとなかなかその黒ホッキ貝を口に出来ないということで、
次の質問は後に残して箸を伸ばして黒ホッキ1片、
まろやかな酢味噌の存在を感じる。
噛みしめると肉厚のワカメからの磯の香、
これまた肉厚の黒ホッキ貝からの旨味が混ざり合っていく。
「うーん、これぞ三位一体の旨さだね。」
思わず笑みがこぼれた・・・。
「ありがとうございます。」
大将が満面の笑みを返してくれた。
手作りの酢味噌が、決して主役を殺さないでいながら
しっかりとその存在感を示している。
主役の黒ホッキと脇役のワカメだけでは味気ない・・・
酢味噌だけではもっと味気ない・・・、
三位一体の旨さを箸を運ぶ毎に実感しまくった。