オクラの煮物

食・彩・記

カウンター越しの厨房に見慣れないイケメンの若い男性がいた・・・。

若い男性といっても僕から見れば誰でも若いのだが・・。

 

聞けば年齢は30歳、普段は劇団に所属していて俳優を目指している、

とても現状では生活出来ないので普段はアルバイトで

生計を立てている、、、という。

 

その彼が、突き出しの一品として作った料理が

オクラの煮物だった。

僕に出す数日前にお客さんに出したところ、

「一寸味が薄いね」「出汁を効かすともっと良いのでは?」

などと言われたらしい。

 

そんなことは知らずに、

「僕が作った突き出しです」と差し出してくれた小鉢を見ながら、

「イケメンだなあ・・、僕には負けるけどね・・・」

なんて虚しい会話を交わして箸を口に運ぶ。

 

口に入れた瞬間に、オクラに染みこんだ出汁が口に広がる。

噛みしめればオクラの粘り気とともに更に出汁が絡んでくる。

「うーん、プロ並みにしっかり出汁が効いているね」

「オクラは加熱すると色が変わりやすいけど良い色だね」

偉そうに評価する・・・。

一寸緊張気味だったイケメンの彼の顔から笑みがこぼれ落ちた。