煮染め

食・彩・記

馴染みの割烹は席に着く前に既にお椀がセットしてある。

初めて行った時には「手抜き?」と思ったものだ。

ただ、僕も含めて初めて食べる多くの人が

この一品によってこの割烹の虜になってしまう。

 

椀の蓋を開けると、綺麗に切り分けられた野菜達が目に飛び込んでくる。

僕もそうだが恐らくほとんどのヒトは「タダの煮染めかあ」と思う。

実際、タダの煮染めなのだからそのように思うのは当たり前・・・。

その味も想像出来る。

 

人参を箸で摘まんで口にする。

口に入って来た瞬間に良い塩梅の塩気が効いた出汁の旨みを感じる。

この時点で想像していたタダの煮染めの味を裏切られる。

噛みしめると、柔らかく煮込んである人参から

素材そのものの甘味と旨みが絡まって、そこに出汁の旨みが加わって来る。

 

平インゲン、ゴボウ里芋大根・・・と箸を進めていけば、

それぞれの素材の旨みがしっかりと出汁と絡み合っていく。

素材の数毎に、その旨みを味わえるタダモノでは

無い煮染めである事に、全てのヒトが気付くのに

時間はかからない。

 

聞けば、素材毎に煮込む時間を変えているらしい。

毎回、行く度に「旨いなあ」と唸ってしまう僕がいる。